
2022年に都立総合芸術高等学校を卒業し、現在、東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻に在学中の注目の若手作家・市川慧。西洋絵画の写実的技法と日本画的な平面性を共存させ、現実と虚構が交錯する独自の世界を描いています。背広姿の「AKIO」や、二次元の魔法少女など、異なる次元のモチーフを同一画面上でクロスオーバーさせることで、現代社会の寓意を表現。まるで映画監督のように画面上の登場人物を演出する感覚で制作を続けています。
今回のインタビューでは、タグボートでの個展「Silent Eclipse」に込めた思いや、現代社会における“光と闇”の表現、そしてこれからの創作への展望についてお話を伺いました。
市川慧 Kei Ichikawa
2003年 東京都生まれ
2022年 都立総合芸術高等学校卒業
2022年 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻入学
画面の中に西洋絵画の奥行きのある写実的技法と日本の絵画表現における超平面的な表現を共存させた、主にペインティングによる独自技法など研究・試作中。混沌とした現代社会の中に存在するどこか欠落したものを抱えて生きる人々の象徴のような背広姿のAKIOと二次元で描く魔法少女などのキャラクター達。独自の精神世界の概念を投影したモチーフ達を次元の違うもの同士がクロスオーバーする特異点を舞台に配置し、現実と虚構が入り混じる世界観を現代の寓意画として表現している。キャンバスという舞台の上で、映画監督のように彼らを演出するような感覚で制作している。クマ財団第9期奨学生。
tagboatでは2回目の個展ですが、今回はどのようなテーマやコンセプトで展示を構成されましたか?
100号以上の大型作品を複数制作し、展示することは初めての試みです。大胆な構図が生きるサイズで、初心に戻って描きました。テーマは絶対的正義や権威、秩序などに対する問いかけでもあり、光の裏の闇、闇の奥の光、そういった目に見えないものを想像できることが大事だと最近感じています。また、自分の中で大事にしているものを具現化したもののイメージがシルバーカラーなので、今回の個展のテーマカラーとなっています。

「Silent Eclipse01」
「AKIO」という存在はこの1年でどのように変化・成長したと感じていますか?
AKIOを描くときは現代社会の象徴のような存在で描いているのですが、AKIOを映画や舞台の登場人物に例えるなら、より細かい設定で監督の要求に応えられる役者のようだと思います。
今回、新しく試みた技法や表現手法があれば教えてください。
初心に返って基本的な技法や素材で、つまり油絵具やアクリル絵の具で地道な作業の重なりで描きました。古今東西、AIが発達しても様々なテクノロジーがどんなに進化しても変わらない「手を使って表現できること」の偉大さを実感しています。

学生でありながら作家として活動する今、“発表すること”と“学ぶこと”のバランスをどう捉えていますか?
学生として大学の課題にまじめに取り組むことの大切さはずっと実感しているのですが、社会に向けて不特定多数の人に対して発表するものではないので、独りよがりに成りがちだったり、講評で言われた言葉にとらわれすぎてしまったりという側面もあります。一方、大学外での活動は幅広い意味で責任を伴う仕事のようなものだと感じています。どちらも全力で取り組むことで成長できていると思います。両方経験できるのは貴重な時期なので今のこの時期を大事にしています。

「Silent Eclipse02」
情報過多の現代で、どのように“自分の感覚”を守っていますか?
とても大事なことだと思います。今回のテーマでもあるのですが、様々な情報は見方を変えるとまるで違った捉え方もできることも多く、またフェイクなのかリアルなのか混在した社会に生きています。本の中で出会った言葉や友人たちとの会話の中での印象的な言葉、日常の中で自分の感性に一致したものに出会った時にひとつひとつ大事に蓄積しています。また身に着けるものもお守りのように精神的に心地よい素材や質感に拘っていて、その一つがシルバーなのです。今回の展示ではシルバージュエリーを限定販売する予定です。

鑑賞者の反応やコメントが制作に影響することはありますか?
鑑賞者が自由に感じることを妨げたくないので作家自らが作品について語りすぎないようにしています。それぞれの価値観や経験に基づいた解釈があると思います。皆さんからのコメントは興味深く、また暖かいお言葉をいただくことも多く大変ありがたく思っています。ただ、反応が具体的に制作に影響することはありません。
市川さんは自主企画のグループ展もされていますが、今後、個展活動とどのように行き来していきたいですか?
自主企画展を3回開催しましたが、社会経験の少ない学生のグループ展でしたので学ぶことが多かったです。社会に対してどう責任を持つかということを学びました。今後は自主企画をするかどうかは全くの未定です。

今後の制作において挑戦したいことや意識したいことはありますか?
毎回その時々で考えていることや興味のあることを反映させながら制作したいと考えています。同じテーマや世界観でも表現方法が違うと別の楽しみ方や感じ方ができるのではないでしょうか。いろいろ試したいです。自分自身の成長や変化もありつつ社会もめまぐるしく価値観や常識が変化している中で生きているので、その中での作品は当然様々な影響を受けて変化していきます。今後もそうして生まれた私の作品を多くの方に鑑賞し考察していただけたら嬉しいです。
11月21日(金)からギャラリーにて個展「Silent Eclipse」を開催いたします!
市川慧「Silent Eclipse」
2025年11月21日(金) ~ 12月9日(火)
営業時間:11:00-19:00 休廊:日月祝
※初日の11月21日(金)は17:00オープンとなります。
※オープニングレセプション:11月21日(金)18:00-20:00
入場無料・予約不要
会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F
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